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一言半句
-Diary-

平成二十年 長月
-September, 2008 -


九月五日

腎内科検診付き添い

朝、おふくろの腎内科検診に付き添いで病院へ。検診予約時刻は 11:30〜12:00。診察室入室は十二時半過ぎ。

今日の検査結果。クレアチニン 7.0、アルブミン 3.4。クレアチニンが一気に上がりすぎ。ヘモグロビン量が 8.3g/dl から 7.5g/dl へ急落していることからも腎機能が低下していることは明らか。先月半ばから 1kg 以上体重が増えており、足のむくみも強くなっているのは水分が十分排泄できていないのだろう。

原因は不明だがこのペースでの進行を仮定すると、来月まで様子を見るなんて悠長なことは言ってられない。今のところ自覚症状はないにしても、放っておけばその前に尿毒症でぶっ倒れるやもしれん。検査と生活改善、薬剤処方調整などのため、急いで入院する必要がある。先生にも時間最優先でお願いして、十日に入院する段取りをとってもらった。わりと急な話だがなにせ状況が状況であるし、四年前に教育入院の経験もあるのでどうにでもなるだろう。なお、五日後には入院だが念のため薬は十日分処方してもらった。

診察室を後に、入退院受付窓口で入院関連手続きと書類の受け取り、会計で支払い、近くの薬局で処方された薬の購入を済ませ、午後二時前に帰宅。

昼飯はカロリーメイトとヨーグルトで軽く。


九月十一日

病状説明を聞く

昨日入院したおふくろの病状説明を聞きに、親父と二人で病院へ。

頼まれた荷物を渡すべく先におふくろの病室へ顔を出し、ついでに行なった検査と新たに処方された薬を聞く。検査は採血、採尿、レントゲンくらい。薬はネオーラル、オルメテックを止めてフランドールテープ 40mg とアダラート L 錠 10mg 、それとアダラート CR 錠 20mg。入院直後の検査で血圧が 200mmHg を超えたとか。あわてて冠血管拡張剤を処方したようだ。微熱も出たと言うし、入院のストレスが覿面に体調へ影響するのはあいかわらず。

ナースセンター隣の部屋で今回の入院で担当医となった Y 先生から説明を聞く。今日の検査結果。クレアチニン 8.2mg/dl, アルブミン 2.9g/dl, ヘモグロビン 6.1g/dl。わずか一週間でずいぶんと進むものだ。定期検診が二週間遅れていたら救急車のお世話になっていたはず。糖尿病判明の時といい、運が良いんだか悪いんだか。

膜性腎症がこれだけ急速に進行するのは珍しく、原因としてまず候補に挙がってるのは薬の副作用。ネオーラルとオルメテックが悪さをしている可能性があるため、服用を中止した。オドリックもちょっと怪しく、変化がないようならこれも止めてみる模様。次の候補はヘモグロビン量の低下が半端でないことから消化管出血。便潜血検査と胃カメラを予定。大腸カメラは便潜血検査次第。これらが原因でないとなると、純粋に膜性腎症の進行期ということになる。なお、ウィルスなどによる急性腎炎も疑われたが検査の結果陰性であったのでこれは心配なし。

さて、状況の把握と方針が決まってあとは検査とその結果次第となるのだが、悠長に待ってもいられない。本人に自覚症状がないだけで腎機能は加速度的に低下しているしヘモグロビン量も正常値の半分まで減っている。すでに危機的状況にあると言っていい。明日午後にでも血液透析、それと状況によって輸血を行ないたいとのことなので同意書の署名をいくつか。症状が改善すればこれらは行なわずに済むのだが、そうでなければ継続することになり、その際はもう少し込み入った処置が要る。

ひととおり説明をもらってふと横を見ると、いかにもチンプンカンプン然な両親の顔が並んでいて密かに脱力。まあそのために俺が来たんだけど。処置を受ける本人としては訳の分からないことをされていることについてどう思っているのやら。

祖母の一周忌までは透析は後らせたいのだが、どうだろうな。


九月二十一日

透析説明ビデオを見る

病院からの「家族の方に人工透析の説明ビデオを見て欲しい」というお達しで、親父と二人で午前十一時に病室へ。ビデオが見られる部屋が使われているとかで十五分ほど待たされてから、別棟のナースセンター横にある一室でおふくろも一緒にビデオを見る。

内容は血液透析、腹膜透析、腎移植についてのおおまかな説明と、実際の透析作業風景を交えた腹膜透析を実施している患者の一日。約二十二分間。腹膜透析大プッシュの模様。現状を鑑みると腹膜透析から始め、状況により血液透析へ移行する方が良さそうだという目星は事前調査で付けていたので驚きはしないが、それを PD first と呼ぶとは知らなんだ。調査不足。

おふくろ本人はあらかじめパンフレットをもらっているわりにまるで目を通しておらず、腹膜透析はなにやら自分でやらねばならないことがあること、入院中すでに応急で血液透析を始めていることなどから、そのまま血液透析でいいとのたまう。血液透析は現状残っている腎機能を早く衰えさせること、血液透析でも外来となれば相応に覚えることや管理することがあることを説明し、よく考えるように話して帰宅。

そして遅い昼飯。


九月二十二日

透析の説明を聞く

昨日に続き「話を聞きに来て欲しい」とのことで、親父と二人で午後二時に病室へ。実習中とのことで看護学生の女の子がおふくろに付き添いでいたが、説明する部屋がわからんとかで看護師からおおまかな場所を聞いて一同移動開始。はじめ聞いた通りの部屋に行ってみたがハズレ。そこで聞いた話をもとにあちこちさまよう。院内に詳しくない看護学生を案内役にするのはいかがなものか。ようやく着いたところは CAPD 室。なんだか意図的なものを感じつつ入室。

今日は詳しい話を聞けるかと期待していたのだが、説明に当たったのは透析を担当する看護師。内容も昨日のビデオの内容を PC のプレゼンテーションソフトでスライド説明しなおしたようなもので目新しいことはなく。この界隈ではどこのクリニックだと日帰りで内シャント手術ができるかとか、腹膜透析だと温泉はあまり良くないとか、一口メモ的情報は得られたが現状瑣末な話。この程度なら昨日分と合わせて一回で済ませて欲しかった。

病室に戻る道すがら、付き添いの看護学生からここしばらくの経過を聞く。一昨日三時間の血液透析をして今日の検査でクレアチニン 5.3 とそこそこの数値らしく、ためしに明日の透析は控えて明後日の検査で見極めるそうだ。それと一日の尿量は 1000ml 弱とそこそこあるらしい。やはりみすみす血液透析で減らすのはもったいない。

ちなみに、看護学生単独では院内のエレベータを使ってはならず、医師や患者との同行でもない限り、一階から最上階の七階までであろうと階段を上るそうだ。なんとなく意図することはわからんでもないが、いまどき非合理的ではなかろうか。

病室に戻り、透析に関して未だ理解の足りなげなところをおふくろに話す。それと現在服用している薬の確認。降圧用の Ca 拮抗薬とビタミン剤と胃薬しか飲んでない。グリミクロンとグルコバイも止めたから血糖管理はインスリン注射になってる。がっかり。

あれ? あの看護学生、甥と歳あまり変わらないんじゃ……。


九月二十七日

入院中主治医から透析の説明を聞く

さかのぼること二日前の二十五日昼、PHS におふくろから着信。三十日に腹膜透析のカテーテル挿入手術の予定が入れられ、それにともない、入院中の主治医で CAPD 外来を担当する T 先生から「話をしたいので二十七日の午前か午後は空いていないか」と俺にご指名が来ているそうだ。二十四日の検査ではクレアチニンが 6.8 と急上昇しており、やはり透析導入はまぬがれないという。

ところで俺は T 先生とはまだ面識もないはず。なぜいきなりご指名を受けるのだろう。診療部長である O 先生の影がちらついているように思うのだがそれはともかく、聞きたいことは山ほどある。せっかくのお誘いに乗らせてもらわぬ手はない。時間に余裕がとれる午後を希望するよう伝えておいた。

当日、親父を連れて午後二時に病室へ行くもお約束のように急患が入り、ナースセンター隣の部屋で T 先生と二十分遅れのご対面。インターンとおぼしき若い医師も同席。

先方からは透析についての概要知識があることを前提に、おふくろの病状において血液透析より腹膜透析がより適していると思われる理由の説明など。要点を押さえた話し方から場数を踏んでいることがうかがえる。おまけにテーブルに開いておいた俺のメモ帳を盗み見て、書かれていた被嚢性腹膜硬化症 (EPS:Encapsulating peritoneal sclerosis) にまで触れる余裕も。話が早いのは助かる。

話の取っかかりとしてちょうど良いので、腹膜透析において最も重篤な合併症である EPS の発症状況とその見解および対策、それと血液透析との併用療法について聞いてみた。これに対し以下のような主旨の回答を受ける。

  1. 発症率は腹膜透析の継続期間に伴い増加(十年で約 7%)
  2. EPS は腹膜透析に伴う腹膜の劣化が原因で発症
  3. 腹膜の劣化は腹膜平衡試験 (PET:Peritoneal Equilibration Test) を主軸に評価、劣化傾向が見られれば血液透析への移行を検討
  4. 以前はブドウ糖保持のため酸性だった透析液も、注液直前に二液を混合する 2bag 式透析液の開発によりほぼ中性となり、液中のブドウ糖分解物量も減少。これによって腹膜の劣化は以前よりかなり抑えられている
  5. 併用療法は尿量が減り残腎機能が低下した時点でも腹膜の機能が良好であることが前提
  6. 併用療法は一週間のうち五日を腹膜透析、一日を血液透析、一日を空き、を基本サイクルとしている
  7. 併用療法の主な狙いは、週二日の腹膜休息、腹膜透析の継続、血液透析での除水による最適水分量への定期リセット

また、腹膜透析では透析液中のブトウ糖が腹膜から吸収されることにより血糖値のコントロールが難しくなるため、今後は糖尿病についてもこちらで一括して管理すること、確率は低いが腎臓移植のドナーが現われるかも知れないので移植希望者の登録を行なうこと、など。

説明の合間には余談も。腎機能はだいたい五十代から低下しはじめるもので年々透析患者がうなぎ登りなのは長寿と高齢化による結果だとか。ちなみに透析開始年齢は平均七十歳。また日本とアメリカとでは人工透析患者数と腎臓移植件数が対照的であるが、某東南アジアの国では宗教的理由から移植はおろか病理解剖や法医解剖すらできず、下手すると村人から石を投げられるとか。宗教のデリケートさは国を問わないようだ。

このあと、予定しているカテーテル挿入手術についての説明を受け、同意書にサインして終了。根掘り葉掘り聞いたせいもあって時間はかかったがおおむね満足できる内容だった。両親はほとんど分かっていそうになかったが。

夕食の準備もあるので早々に帰宅。


九月三十日

手術の付き添いをする

おふくろのカテーテル挿入手術の付き添いとして昼過ぎに病院へ。

手術前ということで朝からお腹の中を空に。水分やカロリーの損失分は点滴で補充。わりとケロッとした表情でいたが血圧は 180 とかひどい値なので不安ではあるのだろう。気休めに非常に安全性の高い手術であることを説明しておく。

午後二時、本人は徒歩で三階の手術室へ。予定所要時間は二時間半。そのあいだ俺は談話室で持参した本を読んで過ごす。内臓を切った貼ったするような手術ではないので心配するまでもない。付き添いといっても文字通り万一の時に備えた形式的なものである。

しかし、予定の二時間半が過ぎても戻ってこない。病室で待っていると三十分遅れで車いすに乗せられ帰ってきた。曰く、病室へ連れ戻す手すきの看護師さんがいなかったらしい。なんという人手不足。この病院は併設されている看護学校の学生などいるだけましなわけで、巷の病院ではどんな惨状になっているのか。

とりあえず本人の表情は手術前と変わらず。看護師さんによる測定では体温 36.9℃とちょっと高め。そして血圧はハンディ計測器では測定不能。それでいてめまいなどはしないというのだからよくわからん。

そして腹腔内の洗浄として透析液 1L の注液、排液を二回行なうとかで一回目の注液をしたところ、ほどなく別の看護師さんが来て急いで排液。カテーテル挿入位置確認のレントゲン撮影を忘れていたそうで、おふくろを撮影室まで慌てて連行。どんだけ連絡系統が錯綜してるんだか。四年前の入院期間延長についてのドタバタといい、いまいち危うげなところは変わっていない模様。

レントゲン撮影から戻ってきた頃には夕食の時間と言うことでインスリン注射。いまだ看護師さんに教わっている状態だが、入院中にみっちりたたき込まれて欲しいところ。素人判断で手順を端折られてはたまらない。これは腹膜透析でも同じ。一見煩雑な手順にも専門家が考えた相応の理由がある。蔑ろにすればしっぺい返しを喰らうだけだ。

夕食が運ばれてくるといいかげん俺のすることがない。できれば執刀医の T 先生から今日の説明を受けたいところだが、そんな余裕は望むべくもない。緊急以外で腎内科が手術室を占有できるのは火曜午後しかなく、他にも手術が目白押しなのだ。まあさっきの排液に血など混じっていなかったし、心配することもなさそうなので午後六時半前に帰宅。

退院予定は約半月後。

TAGUCHI "SP48K" Nobuaki <mailto: sp48k@t12i.net>
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