Treat girls, Now !
- 彼女達に癒しの手を -


≪Chap. 1.≫ Pretty girl, Little lady.

≪Chap. 1.4.≫ Episode 3. - ダンス -

 前回 "Episode 2." の続きです。

≪Chap. 1.4.1.≫ Moon walk

 病室でお兄ちゃんのギターを聞いてから二日、今日も病院に来てる。今朝、具合が悪くて学校を休んでしまったから、いちおう心配ないように診てもらいに。

 診察が終わってロビーに戻った。お医者さんは「大丈夫」って言ってくれたからとりあえず一安心。
 せっかく病院に来たし、またお兄ちゃんに会いたいな。そう思ってロビーを見回したら、郁乃お姉ちゃんを見つけた。近くに行ってご挨拶して、お兄ちゃんのことを聞いたら一緒に探してくれるって。さっそく二人で歩きながら辺りを見回していると、大きなガラスの窓際で建くんと一緒にいるお兄ちゃんを見つける。それを郁乃お姉ちゃんにも教えて一緒に二人のもとへ歩いていった。

「伊之助さん・・・」
 郁乃お姉ちゃんが声を掛けると、お兄ちゃんは振り向いて「郁乃、ル子も・・・」と微笑んでくれた。
「なにやってるの?」と郁乃お姉ちゃんが聞くと、「建を見てやってくれ!!」って嬉しそうに言うお兄ちゃん。どうしたんだろ? と思いながら言われるままに建くんの方を見ると、自慢げにムーンウォークをやってみせてる。私は思ったままに「すごい」と建くんを誉めた。建くんの歳で出来るってすごいよ。「な、なんかすげーだろ」って、お兄ちゃんも満足そう。
 でも、どうして建くんがムーンウォークをしてるんだろ? 不思議に思ってたら、郁乃お姉ちゃんも同じ事を思ってたみたいで「どうしてムーンウォークなの?」ってお兄ちゃんに。そしたらお兄ちゃんは「郁乃はあいつの真似が出来るか?」って TV の方を指さして。言われるままに TV を見ると、体操のお兄さんみたいな人がへんな踊りを踊ってる。まるでお猿さんみたい。そっか、お兄ちゃん、建くんにあの真似をお願いされたんだ。でもあの真似は…、恥ずかしいかな、やっぱり。郁乃お姉ちゃんも「できない、かな」って答えた。それを聞いてお兄ちゃんが「ちょっと路線を変更してみせたんだ」って。うん、それならわかる。

 三人でそんなことを話していたら、建くん、
「にーたん、もっとー」
とお兄ちゃんにせがんできた。それを聞いてお兄ちゃんは思わず「え゛?」って声。でも、かまわず建くんは TV を指さしながら「もっとー」って。横で郁乃お姉ちゃんも「伊之助さんもあきらめるしかないね」とあきらめ顔だし、お兄ちゃんの「ちょっと、待ってくれ・・・」って言葉にも「にーたん、はやくー!!」って建くんはせかしてる。今度は郁乃お姉ちゃんがちょっと微笑みながら「ほら、伊之助さん」とお兄ちゃんの背中を押したり。お兄ちゃん、困ってるみたい。

 このままお兄ちゃん、お猿さんの真似をするのかと思ったら、「いや、この場合、体操のおねーさんでも問題ないんじゃないだろうか?」なんて言い出して。郁乃お姉ちゃんはあわてて「ムリだよ」って断ったけど、今度は建くん、郁乃お姉ちゃんに踊りをせがみはじめた。お兄ちゃん、まんまと思惑通りみたいで、「郁乃さん、ご指名でーす」なんてにこやかに言ってる。
 でも、郁乃お姉ちゃん、本当に困ってるみたい。スカートはいてるし、おさるさんの真似は恥ずかしいと思う。

――私もお猿さんの真似はちょっとできないけど、でも…。

 私は思いきって、お兄ちゃんの腕を引っ張る。振り向くお兄ちゃんに言った。
「お兄ちゃん。私が、建くんに付き合うよ」
 お兄ちゃんはビックリしたみたいで「本当か?」って聞いてきたけど、「うん」と返事する。お兄ちゃんはそれを聞いて「建、ル子がやってくれるってよ」って声を掛けた。私が「おいで、建くん」と呼ぶと、建くんは嬉しそうに返事をして付いてきた。とりあえず広いところに行かないと。

≪Chap. 1.4.2.≫ Dance

 踊りができそうな所を見つけて建くんを連れてきた。
 さっきのムーンウォークを見ると、建くんはセンスが良さそう。うちのお兄ちゃんに始めの頃教わった、あれならきっとできると思う。私は立ち位置を整えて、最初は見て貰うように建くんに言う。
 息を整え、教わったときのことを思い出しながら、私は踊り始めた。

 一区切り付くところで止めて、今度は建くんに分かるように、一緒にゆっくり踊る。途中まちがえそうな所や順番を言いながら、繰返しながら踊りを教えていく。私もうちのお兄ちゃんに教わったから、同じように建くんにも教えてあげられる。
 そうして教えていると、お兄ちゃんから声を掛けられた。私は建くんに待つように言って、ちょっと離れたお兄ちゃんの方へ歩いて行く。近くまで来たところで、お兄ちゃんが私に聞いた。
「ル子はどこかで、ダンスとか習ってたりするのか?」
 うーん、特別習ってる訳じゃないけど…、そう思いながら、
「ううん、うちのお兄ちゃんが教えてくれるの」
と答えた。
 それを聞いてお兄ちゃん、うちのお兄ちゃんがダンスうまいと思ったみたい。でも、実際は建くんよりへただからこう答えた。「え〜とね、ダンスは好きなんだけど、全然自分で踊れないの・・・」それを聞くと不思議な顔をして、お兄ちゃんは「それじゃ、なんでル子は踊れるんだ?」って。だから「お兄ちゃんが、踊り方だけ教えてくれるんだ」と正直に答えた。
 お兄ちゃんは難しい顔をしながら、言葉を続けた。
「え〜と、ル子のお兄さんは踊れないのにダンスが好きで・・・」
「頭の中で覚えたステップを、ル子に口で教えて、ル子はその通りに踊る」
「うん、そうだけど・・・」
「ル子はそれで、覚えられるんだぁ」
「うん」
 …なんだか感心されちゃってるみたい。郁乃お姉ちゃんも「ル子ちゃんも、すごいんだね」って言ってくれたけど、私にとっては前からのことだし、ふつうだと思ってるからちょっと変な気持ち。だから「たいしたこと、ないから」って言ったんだけど、お兄ちゃんは
「そんなことないぞ、ル子」
って言いながら私の頭を撫でてくれる。そこまで、しかもお兄ちゃんに誉められると、なんだかとっても照れてしまって何も言えなくなってしまう。

 私が何も言えないでいると、「ル子おねーたん、これからどうするのー?」って声。いけない、建くんを待たせてたんだ。私は謝りながらあわてて建くんの所へ駆けていって続きを教えることにした。あの場にいるのはちょっと恥ずかしかったし。

 一通り教え終わって、あとは建くんが一人で練習。途中、分からなくなったところやおかしいところを教えながら、私がそばで見てる。うん、やっぱり建くん、センスがいい。飲み込みが早いよ。それに熱心だし。
 そんなことを思っていると、お兄ちゃんが声を掛けてきた。「ジュース買ってくるけど、何が飲みたい?」って。建くんにダンスを教えたお礼におごってくれるって。たいしたことじゃないと思うんだけど、せっかくお兄ちゃんがそう言ってくれたからオレンジジュースをお願いした。

≪Chap. 1.4.3.≫ Seating arrangements

 ちょっとして、離れたところからお兄ちゃんがジュースを買ってきたと声を掛けると、建くんが一目散に駆けていった。お兄ちゃんから受け取って戻ってくると、私の分まで持ってきてくれてた。建くんは「ル子おねーたーん、はい、ジュース」と言って渡してくれたので、「ありがとう」とお礼を言って受け取る。
 私はお兄ちゃんの前へ歩いていって、「お兄ちゃん、いただきます」とお礼を言った。そしたらお兄ちゃん、「おう、いただいてくれ」だって。それに返事をして、お兄ちゃんの横に座らせてもらう。私の特等席。

 そしたら途端に建くんがお兄ちゃんを見ながらうなりはじめた。どうしたんだろ? そう思ったのもつかの間、「にーたんは、そっちーっ。郁乃おねーたんはここーっ!!」って言いながら、私とお兄ちゃんの間に割り込んできた。そのうえ郁乃お姉ちゃんを建くんとお兄ちゃんの間に座らせて。結局、お兄ちゃんが一番遠い端っこにさせられちゃった。私、お兄ちゃんとお話ししたかったんだけど…。
 でも、建くんはジュースを飲みながら嬉しそうに話しかけてくれるし、今日は仕方がないかな?

 しばらく建くんとお話ししてたら、もうお母さんが迎えに来る頃。それをお兄ちゃんに伝えると、建くんが「ル子おねーたん、帰っちゃうの?」と残念そうな顔。だから私は「また、一緒に踊ろうね」と言ってあげた。建くんは「約束だよ」と小指を差し出してきたので、「うん、約束」と答えて指切り。建くん、喜んでくれたみたい。

 玄関へ歩きながらみんなに手を振ると、建くんが一生懸命手を振ってくれた。ふふっ、なんだか急に弟が出来たみたい。
 それにしても、ふつうだと思っていたダンスがあんなにお兄ちゃんや郁乃お姉ちゃんに誉められるとは全然思わなかった。そんなに感心されることなのかな?
 そんなことを思いながら、お母さんとの待ち合わせ場所へ歩いていった。


Continue on next section, " Episode 4. ".


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