Treat girls, Now !
- 彼女達に癒しの手を -


≪Chap. 1.≫ Pretty girl, Little lady.

≪Chap. 1.3.≫ Episode 2. - 花束 -

 前節 "Episode 1." からの続きです。

≪Chap. 1.3.1.≫ Guide

 今日の検診も終わって、いつものとおり病院のロビーへ。あとは帰るくらいなんだけど、…お兄ちゃん、いないかな? そう思ってまわりを見るけど、お兄ちゃんのあの青い髪の毛は見当たらない。

 あ、そういえば。お兄ちゃん、はじめて会ったときに私が「遊びに行ってもいい?」って聞いたら「全然かまわねぇよ」って答えてくれたっけ。だったらお兄ちゃんの病室に行ってみようかな。
 そうは思ったものの、私、お兄ちゃんの病室がどこだか知らない。やっぱり、今日はお兄ちゃんとは会えないのかな…。

 あきらめて帰ろうと玄関の方へ歩いていると、後ろから「あれ、ル子ちゃんじゃない?」って声。振り向くと郁乃お姉ちゃんが立ってた。「どうしたの?」って聞かれたから「お兄ちゃんをさがしてた」って答えたら郁乃お姉ちゃん、なんだか急に優しい笑顔になったかと思うと「だったら私が伊之助さんの所に連れてってあげる」って。やった、これでお兄ちゃんに会える。そう思って郁乃お姉ちゃんの後についていくことにした。
 でも、郁乃お姉ちゃん、どうして急に笑顔になったんだろう?

≪Chap. 1.3.2.≫ Into the room

 ついて歩いていくうち、郁乃お姉ちゃんがある病室の前に立って、
「ここが伊之助さんの病室よ」
そう言って軽くノックをして入っていった。私もいっしょについて入っていく。なんだか、ちょっと緊張する。
 郁乃お姉ちゃんが、中にいるお兄ちゃんに「こんにちは、伊之助さん」と声を掛けた。お兄ちゃんは始めちょっとビックリしたみたいだけど、すぐにいつもの感じに戻って話し始めた。そうするうちにお兄ちゃんが「で、どうしたんだ?」って聞いてきた。郁乃お姉ちゃんは「あっ、ほら・・・」と後ろにいた私を見る。言われて私は、
「お兄ちゃん、こんにちは」
と、顔を出しながら、出来るだけいつも通りに挨拶した。そしたら、お兄ちゃんは微笑みながら私の名前を呼んでくれて。来てよかった。

 郁乃お姉ちゃんが私を連れてきてくれた訳を話してくれたら、お兄ちゃんが自分の病室を私に教えてなかったことに気がついて、
「ごめんな、ル子」
って言ってくれた。でも、私は郁乃お姉ちゃんに連れられてちゃんとここに来られたし、べつにお兄ちゃんは悪くないと思う。それでも、そう言ってくれるお兄ちゃんの優しさが嬉しくて、すぐに
「ううん、いいの」
って答えた。出来るだけふつうに、お兄ちゃんと同じように笑顔で。それを見てた郁乃お姉ちゃんが「かわいいよね、ル子ちゃん」って。お兄ちゃんは「え、そうだな」って生返事だったけど、郁乃お姉ちゃんはさっきと同じ、優しい笑顔になってて。こないだも思ったけど、郁乃お姉ちゃんって私の思っていることが分かってるような気がする。うぅ、そう思うとなんだかとっても恥ずかしくて、何も言えなくなっちゃうよ。

≪Chap. 1.3.3.≫ Present of flower

 いきなり、郁乃お姉ちゃんがビックリしたように「あっ、伊之助さんの部屋に花が置いてある」って言い出した。その様が気に入らなかったみたいでお兄ちゃんはちょっと不機嫌そうに話してた。
 それにしても、お花、綺麗。そう思ってなんとなく出た「綺麗なお花・・・」って言葉に、「じゃあ、ル子にもおすそ分け」と、お兄ちゃんは花瓶から一輪取って私にくれた。お花が綺麗だったのと、お兄ちゃんからのプレゼントだったのがとっても嬉しくて、私は思わず笑顔で「ありがとう」とお礼を言った。

 お花が置かれてる訳を郁乃お姉ちゃんが聞いてたら、お兄ちゃんがバンドしてると話してくれた。郁乃お姉ちゃんもそのバンドの名前を知ってるみたい。私ははじめて知って、ちょっと驚いた気持ちもあって「お兄ちゃん、バンドしてるんだ」って言った。そしたらお兄ちゃんは、
「ああ、その花もファンだって言ってくれる子が持って来てくれたんだぜ」
「え?」と自分でも気付かないうちに声をあげてしまった。
 でも、お兄ちゃんみたいな人に、ファンだって言ってこんな綺麗なお花を持ってくる人って、もしかして…。私は気になったことをそのままにしておけなくて、お兄ちゃんに聞いてみた。
「ファンの人って、女の子?」
「ん、そうだけど・・・」
 やっぱり、女の子だった。そうだよね、わざわざこんな綺麗なお花をお見舞いに持ってくるなんて、男の人はしないもの。きっと、前からお兄ちゃんのライブを見てて、お兄ちゃんが入院したことを知って、お花屋さんで綺麗なお花を一生懸命選んで、お見舞いに持ってきたんだと思う。それにひきかえ、私はただ検診の後に来ただけ。何も持ってきてない。

 でも、それにしても、そんなお見舞いのお花を気軽に私にくれるなんて。お兄ちゃん、お花を持ってきてくれた女の子の気持ちとか、それをもらう私の気持ち、どう思っているんだろう?
 そう思い始めたらどんどん止まらなくなって、
「お花、やっぱりいらない」
と言ってしまう。お兄ちゃんは驚いたみたいで「え?」としか返事しなかったけど、私は構わずお花を渡して「もう、行くね」と言った。それを見てお兄ちゃんは「まだ、来たばっかりじゃん」とひきとめてくれたけど、「バイバイ・・・お兄ちゃん」とだけ言って病室を出た。みじめな気持ちと悔しいような気持ちで胸が一杯になって、涙が出てきて、振り向くこともそれ以上何を言うことも出来なかったから。

病室を出て、泣いている顔をすれ違う人に見られないように下を向きながら、談話室の方へ歩いていった。お母さんが迎えに来るまでまだ時間があるし、こんな顔してロビーには行けないから。
――本当は、病室にいたかった。お兄ちゃんともっとお話ししたかったから。
――本当は、お花も欲しかった。とっても綺麗だったから。
 でも、うまく言えないけど、お花は受け取りたくなかったし、病室にいてお兄ちゃんの顔を見ていたくもなかった。うぅっ、なんだか今の私、すごくいやな子になってる気がする。そう思うとまた涙が出てくる。私は談話室で、ただ立ったまま泣いていた。

≪Chap. 1.3.4.≫ Catch

 涙の勢いが弱まってきた頃、後ろから私を呼ぶ声。
「ル子・・・」
「あ・・・お兄ちゃん」
 追いかけてきてくれた? 私のこと、気にして? さっき顔を見たくない、って思ってたのに、今はお兄ちゃんの顔が見られて嬉しいと思ってしまう。
 そんな私を、お兄ちゃんはまじまじと見てる。あ、泣いてたのがばれちゃうかも知れない。そんな事を思っていたら、お兄ちゃん、「ル子、まだ時間あるんだろ?」って。私は正直に「うん」と答えたら、「どうして、急に飛び出した?」って聞かれてしまった。
 どうして? と聞かれても、自分でもうまく言えないし、うまく言えたとしてもお兄ちゃんには言えない。
 なんて答えたらいいんだろう……。
「・・・まぁ、いいか」
「え?」
――私、せっかくくれたお花、返しちゃったんだよ?
――私、お兄ちゃんがひきとめてくれたのに、聞かずに出てっちゃったんだよ?
――私、あんな勝手なことしたんだよ?
 でも、まるでそんなこと無かったかのように、
「こんなとこに一人でいても退屈だろ」
と笑顔で話しかけるお兄ちゃん。つられて「うん」と答えたら、
「これから、俺ギターの練習するんだ」
って。思わずオウムみたいに聞き返したら、「ああ、見に、くるか?」って聞きかえされた。
 お兄ちゃんのギター? 聞きたい! バンドをやってるのは今日はじめて知ったけど、お兄ちゃんがギターを弾いてるところ、見てみたい! そう思って「うんっ」って思いきり返事した。私、さっきまで泣いてたはずなのに、変だね。

 お兄ちゃんは私の返事を聞いてすぐ「よし、病室に戻るぞ」って言ってくれたけど、どうしてもいま言わなきゃいけない気がして、お兄ちゃんを呼び止めた。そして、「・・・ごめんなさい」と謝った。お兄ちゃんは不思議そうに「ごめんなさい?」と聞いてきて。だから「うん、お花のこと・・・」って答えた。ひどいことをしちゃったから。
 なのにお兄ちゃんは、
「ああ、気にするな」
たったそれだけ。私がしたこと、全然気にした風もない。
「ありがとう・・・お兄ちゃん」
 そう、思ったままを答えた。
 そんな私に、お兄ちゃんは「ほら、行くぞ」って背中を軽く押しながら言ってくれる。嬉しい、そう思ったら「えへへ」って笑いが自然と出てきた。

≪Chap. 1.3.5.≫ Guitar

 お兄ちゃんと一緒に病室に戻ると、郁乃お姉ちゃんが椅子に座ってた。
「あ、伊之助さん、間に合ったんだ」
「ああ、まあね」
 郁乃お姉ちゃんがお兄ちゃんと笑顔で話す。郁乃お姉ちゃん、私たちが戻ってくるの、わかって待ってたのかな? それはともかく、急に出てってしまったこと謝らないと。「ごめんなさい、郁乃お姉ちゃん」そう謝ったら、「別に、ル子ちゃんは悪くないよ」って思ってもみない答え。どうしてそんな答えを? って思ってるうちに、なんだか二人の話、お兄ちゃんが悪いことになってる。お兄ちゃんもそのうち不機嫌になって、「俺が何したんだよ」って言ったら、郁乃お姉ちゃんは、
「女の子から貰った花なんかあげるから・・・」
 !! やっぱり私の思ってること、間違いなく分かっちゃってるよ、郁乃お姉ちゃん。うう、どうしよう。
 しかもお兄ちゃんが「ダメなのか?」なんて聞くから、郁乃お姉ちゃん
「ダメだよね、ル子ちゃん」
って私に聞いてくる。そんなの、答えられないよ。  そんな困っている私を見て、お兄ちゃんは、
「そうか、俺が悪かったのか・・・ごめんな、ル子」
って。私はすぐ「お兄ちゃんは悪くないから・・・」って言ったけど、郁乃お姉ちゃんは「ううん、伊之助さんが悪いの」って。二人がけんかになっちゃう…。でも、お兄ちゃんが「そんなやつは、放っておいてギターの練習、練習」って言ったら郁乃お姉ちゃん、今までと様子が変わって「聞きたい」って。お兄ちゃんも「構わないよ・・・ル子もこっちにおいで・・・」と言って、私をお兄ちゃんの隣に座らせてくれた。えへへ、特等席、それもお兄ちゃんの隣。嬉しい。

「それじゃ、この曲から」
 その言葉を合図に、お兄ちゃんは自分のバンド『bullet』の曲を弾きはじめる。お兄ちゃん、ギターとても上手。それに、いつもよりも、格好いい。もちろんいつものお兄ちゃんも格好いいけど、ギターを弾いてる姿はなんだか生き生きしてて。
 今日もいろいろあったけど、こうしてお兄ちゃんのそばで、お兄ちゃんの弾くギターが聞けるなんて、私、幸せなのかな? そう思いながら迎えが来る時間まで、お兄ちゃんの弾いてくれるギターを聞き入ってた。


Continue on next section, " Episode 3. ".


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