Treat girls, Now !
- 彼女達に癒しの手を -


≪Chap. 1.≫ Pretty girl, Little lady.

≪Chap. 1.2.≫ Episode 1. - かくれんぼ -

 前節 " Prologue " からの続きです。

≪Chap. 1.2.1.≫ Self-introduction

 今日は定期検診の日。あの日以来、お兄ちゃんとお話しできるから病院に行くのが楽しみになってる。

 検診が終わった後、廊下でお兄ちゃんに会った。こないだ話した建くんの病室に行くみたい。お兄ちゃんに一緒に、って言われたからついて行くことにした。

 建くんの病室に行く前に、ある病室の前で立ち止まった。ドアをノックすると、短い髪のお姉ちゃんが出てきた。左のほっぺたに大きなガーゼを付けてるけど、綺麗な人……。お兄ちゃんとちょっとお話しした後、そのお姉ちゃんも廊下に出て来た。一緒に行くみたい。

 建くんの病室についた。お兄ちゃんの後ろについて中に入ると、こないだお兄ちゃんと一緒にいた男の子がいた。あの子が建くん、か。歳は4つか5つくらいかな?

 さっそく、一緒に来たお姉ちゃんが建くんに自己紹介。
お姉ちゃん:「建くん。私、上山郁乃」
 かみやまいくの、郁乃お姉ちゃんか。なんだか元気そうな名前。うらやましい。それに建くんにお話しするとき、建くんに合わせてしゃがんでた。優しい顔してたし。いい人なのかも。
「ほら、ル子、お前も・・・」
「う、うん・・・」
 そうだった、私も自己紹介しなきゃ。でもこういうの、苦手…。
 そんなことを思っているうちに建くんが私の前に来て、
建くん:「ボク、ふじくらぁ たつるぅ」
先に自己紹介されてしまった。私の方がお姉さんなのに。とにかく私も。
「あっ、私、竹内蛍子」
 ふぅ、とりあえずは言えた。そのあとすぐお兄ちゃんに「ル子でいいんだよな?」って訊かれたので「う、うん」とお返事した。

≪Chap. 1.2.2.≫ Agreement

 自己紹介も終わったのでなにかしよう、ってお兄ちゃんの提案に「かくれんぼ!!」と建くんの元気な答え。お兄ちゃんも郁乃お姉ちゃんもそれでいいって。私もそれで構わないんだけど……。
「ル子は、時間平気か?」
 そう。もう少ししたら迎えが来る。お母さんに訊いてみないと平気かどうか分からない。お母さん、忙しいみたいだし。でも、一緒に遊びたいから「うん、電話すれば、平気・・・」って言ったら、お兄ちゃんは「待ってるから電話してきな」って。
 私はお母さんからどんな返事が返ってくるか心配になりながら、お兄ちゃんに待っててもらうように言って病室を出た。

 ロビーの公衆電話にテレホンカードを入れて、お家に電話を掛ける。プルルルル、プルルルル、……。いつもは気にならないのに、今日は出るまでが長く感じる。
「プルルルル、プツッ。はい、もしもし…」
「あ、私、蛍子。あのね、実は……」

 お母さんの返事、構わない、って。お友達が出来たなら遊んできなさい、って。ありがとう、お母さん。
 嬉しくって、いつのまにか建くんの病室まで走ってた。

 建くんの病室の前まで戻ってきた。扉を開けて、部屋の中を見る。あ、お兄ちゃんたち待っててくれてる、良かった。私は走ってきたせいでちょっと息を切らせながら。
「・・・お兄ちゃん。電話、してきたよ」
「ル子・・・別に、走って来なくても良かったんだぞ」
「だって・・・」
 そのあとは、言えなかった。

 建くんにせかされて、さっそく部屋を出ることになった。建くんは元気にお兄ちゃんの右手を引っ張っていく。お兄ちゃんと手を握れていいな、建くん。建くんが良いなら、もしかして私も……。そう思って、思い切って空いているお兄ちゃんの左手を握ってみる。恥ずかしくて顔は見られないけど。
「・・・ル子」
「伊之助さん、大人気だね」
「そうだな・・・」
なんだか、手を握ってても良いみたい。良かった。

≪Chap. 1.2.3.≫ Self-introduction 2

 みんなで一緒に、また別の病室の前へついた。お兄ちゃんがドアをノックすると中から女の人の返事。みんなで部屋に入る。ベッドの上には髪の長いお姉ちゃんがいた。お兄ちゃんとそのお姉ちゃんが話し始めると、途端に建くんがお姉ちゃんの方に飛びついて。もうお友達みたい。
 お姉ちゃんは建くんと少し話したあと、お兄ちゃんと何だか仲良さそうにお話ししてる。郁乃お姉ちゃんも綺麗だけど、このお姉ちゃんも髪が長くて綺麗。……もしかしてお兄ちゃん、長い髪が好きなのかな?

 そんなことを思っていると、建くんからせかす声。お兄ちゃんはそれに答えて、ついでに私たちの紹介もしてくれた。
「ああ、その前に・・・こっちが郁乃で、こっちがル子」
お姉ちゃん:「はい、郁乃さんとル子ちゃんね」
「うん」
 そして今度は私たちに向かって。
「これが建のやってたデコのおねーちゃんで霞夜だ」
霞夜お姉ちゃん:「デコってひどいなぁ、伊之助さん」
「気にするな」
「はい、気にしません・・・それと、よろしく。郁乃さん、ル子ちゃん」
 やっぱり、お兄ちゃんと、霞夜お姉ちゃんっていうんだっけ、仲がいいなぁ。…なんでだろ? とってもうらやましい。
 そんなことを思っているうちに郁乃お姉ちゃんが返事をしてた。でもなんだか、建くんの時よりぎこちない。どうしたんだろう? あ、私も返事しなくちゃ。でもやっぱりこう言うの、苦手。
「ほら、ル子」
 そういって、お兄ちゃんが私の背中を軽く押してくれて、私はやっと返事が出来た。
 ありがとう、お兄ちゃん。

≪Chap. 1.2.4.≫ Hide-and-seek

 お兄ちゃんと霞夜お姉ちゃんが話していると、建くんがいい加減しびれを切らせたみたいに「にーたん、かくれんぼー!!」って。それに答えてお兄ちゃんが「おう。じゃあ、始めるか」と言うと、
「じゃあ、にーたんがおにぃーっ!!」
と言った途端に部屋を飛び出す建くん。お兄ちゃんは言葉もなくって。
 そしたら、なんだか本当にお兄ちゃんが鬼になっちゃうみたい。かくれんぼの鬼って、なんだか仲間外れにされているみたいで寂しい気がする。お兄ちゃん、かわいそう…。
 でも結局、お兄ちゃんが鬼に決まった。仕方ないからお姉ちゃんたちと一緒に部屋を出て、隠れる場所を探すことにした。
 廊下に出て、どこか隠れる場所をさがして歩いてると階段が見えた。階段…、そうだ、屋上に行こう。あそこなら見通しが良いから、お兄ちゃんが来ればきっとすぐに見つけてくれる。そう思って階段を急ぎ足で上がっていった。

――屋上のベンチの後ろに隠れ始めて、もう随分経つ。時計がないからよく分からないけど、もう一時間くらい経ってるかも。お兄ちゃん、まだ探しに来ないな。どうしたんだろ…?
 もしかして、私のこと放っておいて、かくれんぼが終わっちゃってる? そんな、お兄ちゃんはそんなことしないはず、だけど…。そう思い始めたら、何だか不安でいっぱいになっちゃって、じっとしていられなくって、建物の中に戻ってみる。

 建くんの病室がある階まで戻ると、談話室の方で楽しそうな話し声が聞こえた。その中にお兄ちゃんの声も。やっぱり、私のこと…? 思わずそっちの方へ駆けだす。
 談話室に駆け込むと目の前にお兄ちゃんが立っていた。たまらずお兄ちゃんの右腕に飛びついてしまう。
「ル子・・・」
「お、お兄ちゃん・・・」
 寂しさで思わず涙が出て来ちゃったけど、構わずお兄ちゃんの方を向いた。そんな私に、お兄ちゃんは頭を撫でてくれながら話しかける。
「今まで、ずっと隠れてたのか?」
「・・・うん」
 握る手の力と一緒に、気持ちを込めて返事をした。そしたら、
「ごめんな。見つけてやれなくて・・・」
そう言いながら、お兄ちゃんは抱きしめてくれた。私は嬉しさと恥ずかしさで、出ていた涙も止まって。「お兄ちゃん・・・」って言葉しかでなくて。

 胸がいっぱいで、しばらくそのままじっとしていた。誰か来たりしたみたいだけど、話している言葉は耳に入らなかった。ずっと、そうしていたかった。
 しばらくして、お兄ちゃんは私の肩に手をおいて、私をちょっと離して話しかけた。
「ル子、もういいだろ。俺は別に放っておいたんじゃなくて、見つけられなかっただけだから・・・」
 ……えっ? 見つけられなかった? 放っておいたんじゃなくて?
 私の思い違いと分かったら、何だかとっても恥ずかしくなって、頷くくらいしかできなかった。そんな私の頭を大きな、暖かい手で撫でてくれるお兄ちゃん…。

 お兄ちゃんと、いつの間にか来ていた女の人がなんだか色々話してる。建くんのお母さんで誠美さんっていうみたいだけど。そのうち、霞夜お姉ちゃんや郁乃お姉ちゃんも一緒にお話ししてる。そしたらお兄ちゃんが私にも「ほら、自己紹介」って。あわててそれに答えた。ふぅ。でも今日、こんなに色んな人にあったから、少し慣れてきたみたい。

 お兄ちゃんたちがお話ししてるうちに、誠美さんが、
誠美さん:「みなさん、建をよろしくお願いします」
って言ったら、何故かお兄ちゃんが嬉しそうに微笑んでた。霞夜お姉ちゃんが「嬉しそうですね」って訊いたら「嬉しいんだ」って。霞夜お姉ちゃんと郁乃お姉ちゃんは不思議そうな顔をしてたけど、私は何となく分かる。友達が増えて楽しくお話しできるのは、嬉しいもの。たぶん、お兄ちゃんもそれが嬉しかったんだと思うから。

≪Chap. 1.2.5.≫ Escort

 そのあと、みんなで誠美さんに飲み物をごちそうになりながら色々お話ししてた。けど、ふと時計を見たら、もうすぐお母さんが迎えに来る頃。せっかくみんなと友達になれたのに…。そう思いながら時間のことをお兄ちゃんに伝えると、郁乃お姉ちゃんも「戻らなきゃ」って。そしたらお兄ちゃんは、
「じゃあ、ロビーまで送っていくよ」
って言ってくれた。お兄ちゃんと少しでも長く一緒にいられるのは嬉しい。なのに郁乃お姉ちゃんは「べつに、いいよ」って返事。私は思わず「えっ・・・」って言っちゃって。そのせいかわからないけど、結局お兄ちゃんはロビーまで送ってくれることになった。良かった…。
 でも、郁乃お姉ちゃんが「ごめんね」って。「ううん」としか答えなかったけど、もしかして私が思ってること、分かっちゃってるのかな?

 ロビーまでの廊下を歩きながら、今日のことを考えてた。建くんに会って、郁乃お姉ちゃんに会って、霞夜お姉ちゃんに会って、かくれんぼをして遊んで、ちょっと思い違いをしちゃったけど。それに誠美さんに会って、みんなでお話しして。ほんのこないだまで、一人で寂しいと思ってたのがうそみたい。それも全部、お兄ちゃんに会ったおかげ。そう思うと、お兄ちゃんて凄いよね…。お兄ちゃんには感謝しないと。
 そんなことを考えてたら、ふとそのお兄ちゃんと目が合っちゃって。あれ? いつのまに私、お兄ちゃんを見てたんだろ?
「どうした、ル子?」
「ううん。なんでも、ないの」
「そうか・・・」
 お兄ちゃんのことを考えてた、なんて言えないから、あいまいな返事。

 お兄ちゃんと郁乃お姉ちゃん、郁乃お姉ちゃんのおばあさんのお話してるみたいだけど、あまり具合が良くないみたい。なんだか二人とも暗い顔してるし。それに、送ってもらっているのに、何もお話ししないのはなんだか寂しいな。
 ふと、お兄ちゃんの右手が目に留まった。大きくて、あったかい手。霞夜お姉ちゃんの病室へ行くときのことを思いだしたら、また握りたくなっちゃって。そっと手を伸ばしたら。
「あっ」
 お兄ちゃんの方から手を握ってくれて。「どうした、ル子?」って訊かれたけど、ビックリしちゃって顔も見られずに「・・・ううん。なんでもない」としか答えられなかった。そんな私にお兄ちゃんは「そうか・・・」って。それだけの言葉だけど、なんだかお兄ちゃんの優しさが伝わってきて、ちょっとだけ握る手に力が入る。

 私に優しくしてくれるお兄ちゃんを見て、郁乃お姉ちゃんがちょっとからかうように話しかけてきた。そんなお姉ちゃんに、お兄ちゃんは初めはふつうに話してたけど、そのうちちょっと怖い感じになってくる。怒ったお兄ちゃんは見たくないって思ったら、知らずにお兄ちゃんの手を両手で握ってた、力いっぱい。でも声はお兄ちゃんを呼ぶのがせいいっぱいで。そしたらお兄ちゃんは目の前にしゃがんで、私の頭を撫でてくれながら「心配しなくていいぞ」って。分かってくれたみたいで嬉しかった。
 そのあと郁乃お姉ちゃん、私に、「よかったね」って。うぅ、やっぱり、お姉ちゃんって私の思っていることが分かるみたい。なんだか恥ずかしくて、顔が上げられなかった。

 そんなことをしてるうちに玄関も近くなった。お兄ちゃんとお姉ちゃんにお別れを言って、手を振りながら玄関を出た。また、みんなに会えるといいな。


Continue on next section, " Episode 2. ".


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