ここでは 2003 年 11 月 27 日時点での『PrismPaint3.0』を使った自分なりの描き方を纏めてあります。
『PrismPaint 3.0』を使った自己流による描き方の手順説明。サンプルには写生 其之九を使用。当文書読込時におけるデータ容量軽減の為、表示用サンプル画像は 50% サイズ。100% サイズの画像は表示用サンプル画像よりリンクしてあるので必要に応じて参照されたし。なおいずれの画像も色は未調整。
今回の絵を描くにあたって、ザウルス上へ描く前段階としてデリータードールをモデルにクロッキー帳と鉛筆でいくつかラフを描き、構図や人物のポーズを検討しました。 紙に描く利点は、デジタイザ+液晶画面よりも自然な線が描けること、広い紙面にのびのびと描けること、Undo が無く直しがきかないぶん、開き直って色々なパターンを存分に試してしまえることなどが挙げられると思います。
なお、普段はいきなりザウルスに描き始めているので今回は例外中の例外です。
描画ツールの太さを 1px. 、色を約 50% の中性灰色 (RGB:15,31,15)、不透明度を 30% に設定。クロッキー帳で検討した構図から写すかたちで、薄い線を重ねるように描いていきます。この時点では「女性が浅い海の中で立ち、天から降りてくる光球へ手を伸ばすさまを、海中にレンズを半ば沈めた超広角レンズ付きのカメラで捉えた構図」を考えていました。この時点であまり描き込むと主線を起こす段階で煩わしいので、ボリュームと関節の位置が分かる程度の簡単な要素に分けた人物の形といくつかの補助線を描くにとどめてます。
ちなみにこの段階では動作速度優先のため背景レイヤ 1 枚の状態で描いています。
レイヤ使用例−下描きの加工にある手順で下描き線を主線起こしの邪魔にならないように加工し、下描きと同じ設定のペンと空いている前景レイヤを使います。
トレースらしいことはせず、大雑把に描いてある下描きをもとに骨や筋肉の付き方、繋がり方を考えて、肉付けするように主線を描いていきます。想像で分からない場合は資料や鏡に映した自分の身体を参照します。経験上、想像のみで分からないまま適当に描くとバランスや描写の妥当性が必ず破綻するのでできる限り避けたいところです。
なお、PrismPaint が動作する MI-EX1, MI-TR1 は 4 型液晶画面に VGA 表示という高精細な解像度ゆえ、等倍表示では 1px. 単位で思い通りの線を描くことは困難です。これはデジタイザの精度、人間の手の動作いずれの面でも言えます。したがって以後の作業はズームによる 2 倍表示、またはルーペによる 4,8,16 倍表示で行なっています。
とりあえずは人物の主線をおおむね描き上げ、バランスを見ます。
画面全体に占める人物の割合は悪くないものの、いかんせん位置が上に過ぎ窮屈で、空の広がりが描けそうにないことがわかります。
そこで、視点の位置を海中から少し上に考え直すことにして、人物の位置を左下に移動させました。
人物の頭上(画面上での右上)が空いて開放感が得られたのでこの位置に決定し、残っている人物の主線を一通り仕上げてしまいます。
人物が終わったので、次に空いている水彩レイヤを使って背景を描きます。
対角線を絵の中での垂直線と設定し、下側約三分の一あたりを目安に水平線を引きます。水平線と言っても超広角レンズの歪曲収差を表現するため弧を描いています。いわゆる黄金分割 ((√5-1):2≒1:1.61) を真似てますが、おおまかに「世はなべて三分の一」という呪文(?)にしたがっています。そして空にも補助線として同じような弧を二本描き、その曲率に沿うように雲を描いていきます。ついでに光球も描いておきます。
余談ですが、実は対角の直線や分割点の位置決めに定規を使っています。画面の枠に渡して画面に触れないようにすれば問題無いのでこういった用途でたまに使います。紙に描いているような感覚で割と気に入っているんですが、とある御仁曰く「そのうちコンパス当てそうですよね」だそうで。学生時代に使っていた STAEDTLER の製図用コンパスを持ってるんで、いつかやってやろうと画策中。
ひととおり描き終えたら、要らない補助線を消したりいくつかの修正をして主線の仕上げをします。
仕上げた主線はレイヤ使用例−主線の加工にある手順で次の彩色がしやすいように加工しておきます。
主線を描き終わったら彩色に移ります。
普段は人物から塗り始めるところですが、今回は手を焼きそうな背景から始めています。日が出る直前、暁の空をイメージしているので Google のイメージ検索で探したそれらしい写真画像のいくつかを参考資料として用意。まずは空のグラデーションにとりかかります。レイヤは乗算モードの前景レイヤを使用。
ここで、ハード、ソフトとも 16bit color であること、数百ピクセルの間で水平線近くの赤から天頂の藍色まで色相、明度とも激しく変化させることとなる条件から、階調の一段階ずつを手で塗っていくのは難しいと考えて、要所要所に色をおいてぼかしツールで伸ばす方法を選択。
これが時間をかけた割にひどい出来でげんなり。レイヤごと消してしまおうかとも思ったものの、少し考えてぼかしをより一層進めてみることに。その結果、低空については大気のよどみの雰囲気が感じられたので良しとしました。天頂近くは相変わらずおどろおどろしいほどムラがひどいけれど、こちらはひとまず保留。
目標とする色を不透明度 30% 程度にして等倍での具合を見ながら、同じ前景レイヤ上に 4 倍ルーペで塗っていきます。はじめ、1px. のツールで描いていたら細すぎたらしく見苦しげなムラが発生。 程よいムラを出すためにいろいろと試行錯誤して、結局 2,4px. の描画ツールとぼかしツールでぺったぺったと大雑把に塗り直しました。
いまだ残る天頂部のムラを気に掛けつつ、とりあえず空を塗り終えたので海に移ります。
写真を見ると、空と違い海のグラデーションは両端間のピクセル数の割に色相、明度ともあまり変化を要しません。この程度の変化ならいけるだろうと考え、一階調ずつ手で塗っていきました。
具体的には、海面近くの赤紫色から手元の深い青に向かって、一階調ごとに RGB スライダで微妙に色を変えながら、適当な太さの描画ツールで縞や層を描くように塗っています。24 bit color 表示の PC 画面で 100% サイズのサンプル画像を見れば色の層が判別できるはずです。
この塗り方は期待した結果が得られ、上手くいったと思います。
若干見える階調の縞を紛らわす意味も含め、波の反射光を描きます。
不透明度 10〜20% にした細めの消しゴムツールを使いさくさくと描いていきます。いまいち波の立体感に乏しいところですが、あまり凝るところでもないように思ったので適当に。
この段階で天頂のムラがいいかげん気になってきたため、最暗部の暗さを犠牲にして海の塗り方と同じ方法で天頂付近のグラデーションを塗り直し。成層圏の清澄な空気の透明感が出せたかと思うので、気を良くしてついでに光球をドット打ちしました。
若干気になるところは残っていますが、とりあえず背景はこれで一段落とします。
次に人物の彩色へ移ります。
普段、人物はレイヤ使用例−要素ごとの彩色にあるように二枚のレイヤを使って塗っています。しかし今回は主線の扱いを決めかねていたため、主線用に使われている背景レイヤを背景が塗られている前景レイヤと統合させずに置きたかったので、空いている水彩レイヤ一枚で塗ることにしました。
そうは言っても方法はさして変わらず、レイヤ二枚に分けていた作業を一枚にまとめただけです。ベースを塗り、その上から陰影色を 10〜30% で塗り重ね、最後にはみ出した部分を消しゴムで消す、という手順。
とはいえ、あまり慣れていない方法なこともあって思い通りの色にならなかったり、きれいなグラデーションにならず縞模様ができてしまったり。色の方は何度か試し塗りをすることで解決したものの、縞模様の方はこの塗り方では解消しきれず。
良い方策がないか考えながら、とりあえず一通り塗っていきました。目はレイヤ使用例−目の彩色の方法を使っています。
一見して大腿部から胴体にかけての縞が随分と目立ちます。腕の方も少々。
いろいろ考え、現時点で好ましいグラデーションを得るには海と天頂部で使った方法が現実的な解だという結論に達したので応用しました。
具体的には以下のような手順の繰り返しを行なっています。
言葉で書くと簡単ですが実作業ではかなり苦労しています。海や天頂部のようにあらかじめ決め打ちで塗っていくのではなく、既にある色の間へ新たに色を置いていくという面倒に加え、微妙な色の違いであるため色表現に優れる透過型液晶画面でも色の境界線を正確に識別するのが難しい状況で、画面を色々な角度から眺めてみたり(液晶画面は液晶の偏光特性を変化させることで RGB 各色の輝度を制御し任意の色を表示しているから見る角度で色が変わる)、スポイトをテスタプローブのように各部に当てて RGB 値を見ることでようやく境界を判別するありさま。こうして説明を書いているものの、はっきり言ってお勧めしない方法。
ともあれおおむね上手くいったので髪の毛の光沢と頬の赤みを描き足し、人物の彩色を一段落とします。
背景、人物と一通りの彩色を終えたので、レイヤ分けして塗られている両者間の境界を整合する作業に取りかかります。
前段階でも境界からはみ出た色はある程度消してありますが、一部に重なりやすき間があります。また、いわゆるジャギも見られます。これらを消すために以下の作業を行います。
この際、不透明度は濃い(または暗い)色で 30% 、薄い(または明るい)色で 50% が目安です。薄い色で不透明度を 40% 以下にして塗り重ねると内部計算の丸め誤差などで元の色から変わる傾向が強くなります。
ちなみに、主線が描かれている背景レイヤは残ってはいますが、今回の絵では線で囲むのではなく色彩と光の明暗で物の形を表わしたかったので、主線自体は濃度をごく薄くして見えるか見えないかくらいにしてあります。
最後に全体を見直し、おかしいところや足りないところの修正と描き足しをして完成とします。
描き足しは肌の光沢と天頂付近の星々、修正は大腿部のフォルムと一部の影、といったところが主な箇所です。
描き終わったら別名で保存ボタンで BMP ファイルを出力し、履歴ファイルのバックアップを兼ねて PC へコピーします。ここで通常は BMP ファイルを Photoshop で読み込み、PC で見た場合に合わせて色調整をおこなうところですが、今回は特に調整する必要無しと判断したので未調整のまま JPEG 変換のみをおこなって作業終了とします。