ここでは、『PrismPaint』ならびに『PrismPocket』でのレイヤの使い方について纏めておきます。
PrismPaint3.0 と PrismPocket1.x では最大三枚のレイヤを使用することが出来ます。下から順に背景レイヤ、水彩レイヤ、前景レイヤと重なっているレイヤは各々特徴を持ち、互いの入れ替えや統合が可能です。
しかし一方、機能については可視・不可視、不透明度設定といった基本的なもののみで、PC 用フォトレタッチソフトなどに見られる効果やマスキング、フィルタワークなどの複雑なものはありません。
このことから、PrismPaint, PrismPocket のレイヤは下に述べる二つの基本的機能を主眼として使いこなすことが望ましいと思われます。
ここでは実際に描いていく上でのレイヤの使い方をいくつか挙げていきます。
人にもよりますが、自分は描きはじめである下描きから主線の仕上げまででもレイヤを目いっぱい使います。実例で順を追って説明していきます。
まず下描き。薄めの灰色をさらに不透明度 30% にした 1pixel の描画ツール(通常)で背景レイヤに描いていきます。
下描きを終えたら以下の作業を行い、このあと描く灰色の主線に対して見分けが付きかつ邪魔にならない下描き線に加工します。
最後の作業で、全レイヤ統合ボタンの代りに背景・前景レイヤの入れ替えボタンで再び入れ替えると不透明度 100% に戻ってしまうので注意が必要です。
主線は下描きと同じ設定の描画ツールを使い、髪、顔、身体といった要素ごとに前景レイヤと水彩レイヤとに描き分けます。描き分けるのは、一部分の修正の際にそこに重なる他の要素まで消したり描き直したりせず済むようにするためです。
作業中、たまに背景レイヤを不可視にして下描き線を消すと描き途中の主線がきちんと描けているかの確認がしやすくなります。
主線を描き終えたら以下の作業を行います。
全体の濃度が高い場合は、背景・前景レイヤの入れ替えボタンで前景レイヤへ移動、レイヤの不透明度を適宜設定してから全レイヤ統合ボタンで背景レイヤへ戻す、という作業で調整できます。
以上が通常の行程ですが、状況によっては下描き無しにいきなり主線を描いたりもするので必ずしもというわけではありません。
自分の行程では髪、肌、服など各要素ごとに彩色をしています。
基本的には以下の手順で彩色していきます。
この方法では、はみ出しを気にせず彩色できること、手直しがしやすいことなどの利点が得られる反面、はみ出しを消す手間がかかること、彩色開始直後は全体の色バランスを推し量りづらいことなどの難点もあり、良いことばかりではありません。
要素ごとに彩色していく中で、目はもっともレイヤを使う箇所となります。
具体的には三枚あるレイヤを以下のように使い分けています。
目を描く際にレイヤ三枚をフルで使っているのは、描写対象を物理的に区分すると丁度三つに分けられたのと、自分にとってこの分け方がもっとも表情の微妙な調整をしやすい、というつまらない理由なのでそれ自体はあまり参考にはなりません。
ただ、眼球の物理的構造や現実ではどのように観察されるかの知識を持っていると、PDA のような低解像度で描く際に「何を描いて何を省略するか」の良い判断材料になるのではないかと思われます。
概要で述べたとおり、 PrismPaint, PrismPocket のレイヤ機能は他の多機能なペイントツールに比べ少なく、基本的機能に絞られています。しかし、多機能なペイントツールが持つようななまじ特化した機能ではなく汎用的な機能と特徴を備えているため、それらの組み合わせや作業の組み立て次第によっては自在な効果を得ることが可能となる、ありていに言って腕次第でいくらでも化けるツールです。自分が使うとちっとも化けやしませんが。
こうしたツールを使う際にもっとも恐れるべきは、上で述べたような使用例を鵜呑みにして既成概念として凝り固めてしまうこと、そして実際の作業の中で効果的・効率的な方法を生み出す元となる自由な発想を阻害してしまうことです。他人の使い方はあくまで Tips として頭の片隅に置き、良く理解した特性と機能を武器として臨機応変に新しい使い方を開拓していくのがこのツールの正しい使い方ではないかと思われます。
なお、本文書は 2003 年 11 月 2 日時点におけるレイヤの使用例メモですが、過去はもちろん今後も使い方が変わっていくはずなのであしからず。