ここでは、『PrismPaint』ならびに『PrismPocket』で使えるいくつかの小技について纏めておきます。
PrismPaint3.0 と PrismPocket1.x が備える機能は概して基本的なもので、PC 用の多機能なツールに慣れた人にとっては物足りないと思われるかも知れません。ツールの目指す方向性が異なるので仕方のないことなのですが、工夫次第でその隔たりを多少でも埋められるような使い方もあると思われます。
ここでは自分が知っている小技をいくつか挙げていきます。
人間には線対称や点対称の図形・造形を美しいとする感性があり、これを狙って古代から鏡面対象や点対称の絵画が数多く描かれています。
少々の手間はかかりますが、PrismPaint, PrismPocket でもそのような絵を描くことが可能です。ここでは例として PrismPocket で点対称(180°回転)複写する方法を以下に述べます。
まず、背景レイヤに対称とする元絵の線画を描きます
元絵の線画を描き終えたら、前景レイヤを使ってその線画をトレースしていきます。その際、元絵の線画と見分けやすいように使う色を変えた方が良いでしょう。
トレースが終わったら、ここで一度保存。そして背景レイヤ上の絵に影響のないところに点を一つ描きます(理由は後述)。
全画面の左右反転ボタンを押します。そしてそのままアンドゥボタンを押します。すると選択されている背景レイヤだけが元の位置に戻り、トレースされた前景レイヤは反転されたままになります。(ここで最後に描いた点は消えます)
同じように全画面の上下反転ボタン、アンドゥボタンと押すと今度は前景レイヤだけが上下反転されたままとなります。これで前景レイヤに描かれたトレース線が 180°回転したことになります。
このままでは前景レイヤ上のトレース線は元絵と色が違います。大概は一枚の絵の中で主線は一色なので、透明部分保護ボタンで何も描かれていない部分を保護し、全画面塗りつぶしボタンを使い元絵の線画色でトレース線を塗り替えます。
もしトレース線につけた濃淡を保持したい場合は、塗りつぶしの際に描画色の不透明度を 30〜50% にして何度か塗りつぶしを繰り返すと良いようです。
以上が回転複写の手順です。鏡面複写は上下あるいは左右の反転を一回行なうことで出来ます。
ここで、回転、鏡面複写いずれにしても直前の段階で注意することが二つあります。一つは一度保存することです。反転→アンドゥという操作で稀に不審な挙動を示すことがある為で、せっかく描いた物がおじゃんにならないよう保険をかけておいた方が良いでしょう。もう一つは反転ボタンを押す直前に、反転させたくないレイヤ上の絵に影響のないところへ点を一つ描くこと。これはアンドゥが反転操作のみならず最後の描画操作も元に戻すからで、点を描かないと最後に描いた線が消えることになるので注意が必要です。
Photoshop で複数レイヤと移動ツールを使って絵を構成するオブジェクトのレイアウト調整、という作業は珍しくないと思いますが、PrismPaint, PrismPocket でもある程度それに近いことは出来ます。方法は簡単です。
以上の手順で移動したいオブジェクトのみが動いているはずです。
ちなみに何故こんなことが出来るかというと、PrismPaint, PrismPocket におけるレイヤの不可視状態とは、表示されなくなるだけでなくそのレイヤに対する操作一般が無効になるということだから。したがって、絵を描くことも消すことも出来ないし、移動ツールの操作も効かない、とまあそういうわけです。
最近は PDA も高解像度・多階調化が進み、画像仕様では PC のそれに近づいています。そうなると欲しいのはジャギー(ドットのギザギザ)を解消するアンチエイリアス機能ですが、PrismPaint, PrismPocket にはそのような機能はありません。
一方、描画ツールには中央から周囲に向かって濃度が低くなるブラシがあり、一見これでアンチエイリアスの効いた線が描けるかと思えるのですが、太さと濃度の安定した線を描くのは仕様上難しくなっています。(デジタイザの一走査ごとに描画されるようで、濃度がスタイラスの移動速度に依存します)
ではあきらめてジャギーだらけの絵を描くしかないのか、と考えるのは早計で、手間を必要としますが以下のような方法である程度の緩和が可能です。
まずは普通の描画ツールで曲線を含む絵を描きます。
不透明度を 50% 以下にした消しゴムのブラシ(小)を端で軽く撫でるように使い、曲線部のギザギザの濃度を下げていきます。
このとき、作業は四倍または八倍ルーペで行ない、等倍での見え方に注意しながら進めると加減が分かりやすいと思います。
曲線に囲まれた短い直線部分は不透明度を 10〜20% にした通常の消しゴムで両端の濃度を下げると調和がとれます。
とはいえ、あまりやりすぎるとかえって不自然なので控え目にした方が良いでしょう
上の例では曲線の外縁で行なっていますが、斜めの直線でもまったく同じです。
この方法はある程度の応用が利きます。レイヤ使用例で挙げた要素ごとの彩色で、はみ出した色を消す作業に消しゴムのブラシを使うのもその一つです。慣れると前景レイヤでの陰影端部の階調を滑らかに、なんてこともできます。
ただし、欠点もあります。それは周囲に見えない程度のゴミが残る場合があること。ほとんど白なので白い背景だとわからないのですが、たとえば上書き重ねモードの前景レイヤにゴミが残っていて水彩・背景レイヤが白以外の色、という状態では思いきり目立ちます。(この場合は消しゴムである程度ゴミを消してからレイヤを統合し、 1px の描画ツールを使って近傍からスポイトで取った色を不透明度 30〜50% にして上塗りすることで消していきます)
こんな文章を纏めていますが、個人的にはペイントツールに高度なフィルタや編集機能などはあまり欲しいとは思っていません。たしかに便利で面白く、作画の効率も上がるだろうとは思うものの、それらを使うとなんだか半ば計算機に描いてもらっているような気がします。Photoshop などで盛大に機能を使って描いた見栄えの良い綺麗な絵よりも、手間や時間が掛かっても己の腕と知恵だけで描き上げた PDA 絵の方が「自分で描いた」と胸を張れるのではないかと。
それと、上で挙げた例のほかにも実は作画作業中にその状況に応じて色々な方法を思いついていたりします。ただ、その絵が描き終わりしばらくするとすっかり忘れてしまうことがほとんどなので、いま文書にできるのはこれくらいです。